
LGBT難民とは
LGBT難民という言葉は、比較的新しい概念であり、初めて耳にする方もいるかもしれません。
まずは、国際法における難民の定義から見ていきましょう。
1947年に設立された国際連合に続き、第二次世界大戦後の混乱の中で、多数の人々が故郷を追われる状況が生まれました。
これを受けて、1951年に「難民の地位に関する条約」(通称「1951年難民条約」)が採択されました。
この条約では、難民を次のように定義しています。
難民の地位に関する1951年の条約 第1条第2項
「1951年1月1日以前に発生した事件に起因し、
人種、宗教、国籍、特定の社会的集団の構成員であること、または政治的意見を理由に迫害を受けるおそれがあると十分に理由づけられる恐怖を持つため、
国籍国の外にあり、かつその保護を受けられない、または受けることを望まない者。
または、常居所を有していた国の外にいる無国籍者で、帰国できないか、同様の恐怖から帰国を望まない者。」
この定義は、ナチスによる迫害を受けたユダヤ人などを念頭に置いて作られたものであり、紛争や民族浄化、自然災害など他の理由で国を追われた人々は、当初、対象外とされていました。
その後、世界各地でさまざまな難民危機が発生したことを受け、対象範囲を広げるために1967年議定書が追加され、1951年以降に発生した事態も含めた広範な保護が可能となりました。
しかし、LGBTの人々が性的指向や性自認を理由に迫害される問題については、長らく国際社会で十分な認識がされていませんでした。
LGBT難民は、こうした従来の難民制度の「想定外」に置かれてきた存在だったのです。
LGBT難民の位置づけと現状
この課題を受けて、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は、難民保護における包括性を強化するため、LGBT(近年ではLGBTIQ+)に関するガイドラインを策定しました。
ガイドラインでは、LGBTIQ+の人々が直面するリスクについて、次のように述べられています。
UNHCRガイドラインより抜粋
「国家および非国家主体による深刻な迫害や差別により、未成年者や高齢者を含むLGBTIQ+の人々は、
権利を十分に行使できる安全な環境を求めて、出身国や常居所地から逃れざるを得ない。
亡命を選択したLGBTIQ+の人々の多くは、受入国の国民だけでなく、他の避難民からも、
同性愛嫌悪(ホモフォビア)やトランスフォビアに基づく暴力のリスクに直面する。
これらのリスクは、外国人嫌悪、不安定な移動状況、社会経済的疎外、支援ネットワークからの孤立、
深刻な精神的ストレスによってさらに悪化する。
第三国への再定住は、リスクの高いLGBTIQ+難民にとって、時に唯一の持続可能な解決策となる。
受け入れ国における包括的な統合支援が不可欠である。」
つまり、性的指向や性自認を理由に命の危険にさらされるLGBTIQ+の人々は、難民条約の「特定の社会的集団」への迫害として位置づけられ、保護対象とされています。
LGBT難民の人数が「わからない」理由
しかし、世界にどれほどのLGBT難民が存在するのか、正確な数はわかっていません。
その理由は複数あります。
- 自己申告の困難さ
LGBTであることを明かすこと自体がリスクとなるため、難民申請時にも多くの人が沈黙せざるを得ない。 - 統計システムの未整備
多くの国では、難民・移民統計に性的指向や性自認に関する分類項目が存在しない。 - 多重差別・複合リスク
迫害の理由が複雑に絡み合っており、単に「LGBTだから」という理由に単純化できないケースが多い。
このため、LGBT難民に関する統計は、推計や限定的なデータに頼らざるを得ない状況が続いています。
既存の推計データ
ウィリアムズ研究所の推定によると、2012年から2017年までの間に、アメリカでLGBT成人が亡命申請を行った件数は約30,900件(年平均約6,200件)とされています。
また、イギリス政府のデータでは、2022年の難民申請のうち、2%(1,334件)が性的指向に基づくものであり、特にウガンダ出身者の割合が高いことが報告されています。
まとめ
LGBT難民とは、単なる性的マイノリティではなく、その存在を理由に生きる場所を追われ、命の危険に晒されている人々です。
彼ら彼女らの数は、目に見える以上に多く、それでいて正確な数を誰も把握できない―― それは、彼らが声を上げることすら許されない環境にあるからにほかなりません。
LGBT難民の存在を知ることは、見えない抑圧に光を当て、誰もが尊厳をもって生きられる社会を築くための第一歩です。
